空中配線断線の話


私が係わっている製品にφ0.15mmのエナメル線が15mmほど空中配線されている場所がある。
その線が切れてしまうケースが発生した。原因は?の話。

一年ほど前にもそんな話があり、ピンと張らずに、弛みをつけなさいとの指示が上流より出た。 接続されている片側がPCB(基板)で、それが振動した時に張られているとまずい、 との原因推定だった。
その時は、誰がやっても同じように弛みをつけられる治具を要求され悩んだ。 思いついた原理は簡単、中間点に突起を設置して、それに張るような形で配線、 その後に突起を外せば弛みが残る。 狭い・小さい部分なので、突起の位置をコントロールできる構造に苦慮した。
それで凌いだが、また発生した。

今回疑われている現象は共振と線の固定、固定部分と自由部分の境界が振動で破断という推定。
で、共振周波数はどれくらいなんだろう・・・となった。
解析的に求められないかと調べたが、これは梁と考えるのか弦と考えるのか・・・
3つの方法で推定してみた。

1.ばね系として考える。
張り方向に対して横方向の等分布荷重(慣性力)を受ける梁と考えると中央のたわみは

δ=WL^4/(384EI) 両端固定
δ=5*WL^4/(384EI) 両端自由支持

で与えられる。

W: 等分布荷重
E: ヤング率
I: 断面2次モーメント
L: 線長さ

この場合、式の形からみると、必ずしも直線形状でなくても良いと思われる。
ばね系の固有振動数は

f0=1/2π*sqrt(k/M)

と示されるので

k(ばね定数)[N/m]=W*L/δ
M(質量)=A*L*ρ:線全体の重さと考える
A: 線の断面積
ρ: 密度

と考えると答えは出る。
両端固定は2kHzくらい、自由支持は900Hzくらい。だった。

2.材料力学から、梁の共振周波数
両端固定梁の曲げ固有振動数は

ω=1/2π*(λ/L)^2*sqrt(EI/ρA)
1次 λ=3.73
2次 λ=7.853
3次 λ=10.990

自由端梁の曲げ固有振動数は
ω=1/2π*(k*π/L)^2*sqrt(EI/ρA) (k=1,2,3・・・)
と示されている、両端が固定されていない場合は固有振動数はやや低くなるようだ。
これで計算すると 両端固定は1.4kHzくらい、自由支持は1kHzくらい。だった。

3.弦と考えた場合
張られた線の固有振動数は次式で示される

V=x/(2L)*sqrt(T/ρ')
ρ' : 線密度[kg/m]
T: 張力[N]
x=1,2,3・・・

この場合、張力が無い、零だと固有振動数は零になるので、
適度な張力を考えなければならない。
素線の破断応力から、半分くらいまでをかけられる力(張力) として計算すると、
張らなければ700Hzくらい
ピンと張って1.9kHzくらいとなった。


製品の共振周波数を求めた時、
1kから2kHz以下の領域に共振周波数があるかないかを評価したので、 そのあたりを製品使用域と考えると、 張り方にもよるが共振する可能性があることになる。
技術側で実験を行うそうである。

もっとも私としては、空中配線という製品設計に問題があると考えるのだが、 如何なものであろうか?

この項完。[2009.3]

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