私が係わっている製品はモーターである。
モーターのコアは珪素鋼板を重ねて作る。
我が社のモーターは多品種少量なので接着で積層している。
その接着剤が製造中止になったので代替え品を試した。接着強度はすぐれているが粘度が高い。
今までどおりの作業で接着剤が浸透するだろうか?という話。
今までの接着剤の粘度は45mpas、新しい接着剤は65mpas。
薄板を重ね合わせた隙間に接着剤が浸透していく状況を考える。
粘性の流れは、流れ学的に考えると粘度に比例して流れにくいと言える。
たとえば入口圧力p1,出口圧力p2の半径aの管の流れの場合は、
管内流の圧力勾配 Gは G=(p1-p2)/L
体積流量Qは Q=π*G/(8*μ)*a^4
と計算できる。
ここで、μは液体の粘度。粘度が小さいほど流量は増えることになる。
もうひとつ動粘性係数 ν=μ/γ γは比重という物性値がある。
これは重力による流れ安さを示す値と言われる。
いろいろと調べてみたが、重力で流れ落ちる液体を論じたものは見つからなかったので考察してみた。
2Tの隙間を液が流れ落ちていく状態を考え、
壁面(t=T)では流速u=0、中央(t=0)で最大となり、
液の粘性による応力と速度が釣り合う系を考える。
液のせん断応力τは粘度をμとすると、
-τ=μ・du/dt
隙間2Tの長さをLとすると、厚さtの部分のせん断力は -τhL
高さhの部分を考えると、0〜t の部分にかかる重力は、γghLt
これが釣り合うとすると、h、Lは消え、hに関係なく流速は定まることになる。
連続の式の概念から、流量は保存量となり、流路に変化が無ければ流速は変わらない、
hによって流速が変わってしまうと矛盾が生ずる。
そう考えるとこの式は妥当と思える。
du/dt=-tγg/μ
これを解くと、
u(速度分布)=gγ/(2*μ)*(T^2-t^2)
u max(中央流速)=gγ/(2*μ)*T^2=g/(2ν)*T^2
Q(流量 :流速 uを t=0〜Tで積分))=2/3*gγ/μ*T^3
流速は動粘性係数 ν=μ/γに反比例することが解る
この式から計算すると、隙間が20ミクロン以下の場合この接着剤は重力では、
ほとんど流れ落ちないと推定できた。
重ねた板の厚さを測定すると、隙間はほとんど無い、数ミクロンレベルだろうと思われた。
でも、現実には板の隙間に接着剤は浸透していく。
ならば、いわゆる毛細管現象の話となる。
毛細管の場合、液に浸された管内を表面張力で液が登る高さは、
Z=2Tcosθ/(γgr) (表面張力の力と引き上げられた液の重さが釣り合う高さ)
と表される事がよく知られている、
薄板状の系を考えて同様の式を導くと、Z=2TLcosθ/(γgLt) となり、Lが消え、
管と同じ形になることが判った。
水の場合、直径0.1mmの管で約28cmのオーダーとなると言われている。
水の表面張力は0.073N/mで、濡れ角θは理想的な90度として、
隙間5ミクロンで計算すると、約3mとなった。
主な溶剤の表面張力は0.020N/mくらいで水より小さいが、積層した鋼板には十分浸透すると思われる。
浸透することは解ったが、浸透する早さを求めたい。
いろいろと調べたが、その値を算出する例は見当たらなかったので、
仮定の下で推定を試みた。
流れ方向をXとして、表面張力で引かれる液体が、流れる系を仮定する。
液は半剛性と考えて、引かれるほどXは増加し、質量が増えていくと考える。単位長さの隙間を考える。
表面張力による力は
2*α*cos(θ)
速度分布は放物線ではなく直線と考え、壁面で0、中央でu=dx/dt とする。
表面張力は本来は壁際に発生するが、力学的に液全体にかかると仮定する。
流れによるせん断力は粘性の定義から(今回のtは時間を表す)
-2*(dx/dt)/(T/2)*μ*X
=-4/T*μ*X*(dx/dt)
力がかかる液の加速度と質量は
T*γ*X*(d2x/dt2)
これらの釣り合いから運動方程式が導かれる。
T*γ*X*(d2x/dt2)+4/T*μ*X*(dx/dt)=2*α*cos(θ)
変数係数型の2階微分方程式となり、解析的に解くことは難しいので、
差分法にて数値計算を行った。
ただし、接着剤の表面張力のデータは無かったのと、界面張力も影響し推定が困難なので、
計算では水と同じ値を表面張力として計算した。
その結果、隙間が小さいほど浸透が悪い結果が得られた。
隙間が小さい事による液の慣性力の減少より、粘度による抵抗の方が大きくなる為と考えられる。
そこで慣性項の影響を微少として削除すると方程式は次のようになり、
解析解が容易に算出できる。
4/T*μ*X*(dx/dt)=2*α*COS(θ)
積分して t=0でx=0とすると
1/T・μ・x^2=α*cos(θ)
x=sqrt(T・α*cos(θ)/μ*t)
演算結果を比較すると、両者はほぼ一致した。
この簡易式で計算してみたら、コアの幅はおおむね30mm程度の大きさなので、
数分のオーダーで接着剤は浸透すると推察でき、新旧の接着剤の粘度差は影響が少ない。
という結果が得られた。
したがって、評価品を使った接着は、
従来の接着剤と同様の塗布作業でコアに接着剤を浸透させることが出来ると考えられた。
浸透する早さを調べるのは難しいので、接着剤を塗った後の置く時間を変えて実験したが、大丈夫だった。この考え方は正しいのだろうか?
この項完。[2009.11]
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